変形性膝関節症について
この記事の監修者
株式会社AKAISHI 代表取締役 赤石恒一 / 保健学博士
靴医学の権威、新潟医療福祉大学大学院の阿部薫教授に師事。専門分野は保健学で、足の悩みの改善や、靴の機能向上のための研究をしている。
【所属学会】日本整形靴技術協会(副会長)、日本靴医学会
変形性膝関節症(膝OA)とは
よく中高年の方が膝痛で病院に行くと、「変形性膝関節症だね」といわれる方が多いと思います。変形性膝関節症(膝OA)とはなんでしょう?
知らず知らずのうちに、体型や姿勢の変化、筋力の低下が長い年数をかけて起こり、そこに軟骨の再生能力の低下が追い打ちをかけ、再生能力以上に軟骨がすり減りやすく、痛みが出ている状態です。
痛みのメカニズム
一般的には
①体幹及び股関節周りの筋力低下 → ②O脚・ガニ股 → ③変形性膝関節症 → ④膝の内側が痛くなる
というのが大多数ですが、
①体幹及び大腿部周りの筋力低下 → ②X脚 → ③変形性膝関節症 → ④膝の外側が痛くなる
という方も、極少数ですがいらっしゃいます。
いずれにしても、膝関節周りのアライメント異常(まっすぐじゃない状態)が原因で起こります。
変形性膝関節症(膝OA)の痛み
変形性膝関節症の有病率&なりやすいタイプ
では、変形性膝関節症(膝OA)はどのような人がなるかといいますと、40代以降での発症率が多く、男性よりも女性が多いことがわかっています。この有病率を人口統計に照らし合わせてみると2,530万人に及び、中でも痛みを伴う患者は800万人と推測されています。
また、BMI(体格指数:kg/m²)のほか、「立つ」「歩く」「坂を上る」「重い荷物を持ち上げる」などの職業動作も関係していることがわかっています。
「40歳以降の女性で、最近ちょっと体重が気になり始めた、立ち仕事の方」は要注意!
変形性膝関節症の症状
◎初期症状 ―朝起きて膝に違和感―
朝起きて歩き始めたときに、痛みというよりは「膝の違和感」が現れたら注意が必要です。初期段階では、しばらく休むと自然と痛みが消えることも多く、本格的な変形性膝関節症(膝OA)に至らずに治ることもあります。
◎中期症状 ―休んでも痛みが治りにくい―
初期症状をそのままにしておくと、痛みの頻度が高まり、完全に膝が曲がりきらない、伸びきらないなどの症状が進み、正座やしゃがむなどの動作が苦痛になってきます。このころには、膝に水が溜まったり、膝の変形が目立つようになります。
◎末期症状 ―日常生活に支障が―
さらに、放置すると、買い物や仕事などの日常生活に支障がおこるほどの痛みになり、活動範囲が狭まります。いわゆる、QOL(Quality of life/生活の質)が低下し、寝たきりの原因や痴ほう症状などの、ロコモーティブシンドローム*と同様の問題が現れます。
*ロコモーティブシンドローム
運動器の働きの衰えにより、暮らしの中での自立度が低下し、介護が必要になったり、寝たきりになる可能性が高くなること。※日本整形外科学会ガイドラインより
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症(膝OA)は、原因のはっきりしないものを1次性、原因の明らかなものを2次性として分類されています。
1次性のものは、肥満や筋力の衰え、足部変形や履物に気をつけることで、進行を抑制・改善することが可能です。
2次性のものは、怪我などが要因となるので、怪我をしないように気を付けることが大切です。
変形性膝関節症の予防法
肥満を解消
体重を減らす。適正な体重の方は無理に体重を落とす必要はありません。BMIが30を超えている人は、体重を落とす努力をしましょう。但し、中高年の方は、食事制限や無理なダイエットをすることで骨粗鬆症を引き起こすなど、状態を悪くすることにもつながりますので、糖質を抑えつつもバランスの良い食事を心がけてください。
筋力アップ
運動をするのであれば、体重のかからない運動をお勧めします。自転車・水泳・水中歩行など、いずれも急性期の痛みが治まってから行ってください。また、ウォーキングも筋力をつけるには良い運動です。しかし、歩きすぎると悪化しますので、30分を上限にしましょう。登山はお勧めいたしません。かかりつけのお医者様がいらっしゃれば、必ず相談をしてください。
ちなみに、日本整形外科学会のガイドラインには、簡単な運動療法が紹介されています。参考にしてみてください。
自宅でできる運動療法(※日本整形外科学会ガイドラインより)
(椅子に座って行う体操)
(横になって行う体操)
O脚の改善
O脚の原因は、内もも周りの筋肉、腸腰筋の低下が原因です。猫背にならないよう背筋を伸ばし、大股で歩くことを心がけましょう。
また、靴にも工夫が必要です。膝が外側に揺れ動かないように、外側を高く、内側を低くした「ラテラルウェッジ」のインソールを使用することをお勧めします。また、この時、ひとつ注意点があります。「ラテラルウェッジ」のインソールを使用しても、大きすぎる靴を履いていると、踵がしっかり補正されないので効果が薄いことがわかっています。ですから、踵部分にあそびがないよう、適正サイズの靴を履いてください。
「ラテラルウェッジ」インソール
外側の部分(特に踵から~小指の付け根)が3~6mmほど内側より厚くなり、重心を内側へ誘導するように設計されたインソールです。内外差は、一般製品としては6mmを限度とし、それ以上の傾斜は、足関節を痛める原因となるので、基本的にはお勧めできません。(お医者様に相談してください。)また、違和感や足関節への負荷を考えると、いきなり6mmのものを使うより3mm→6mmと徐々にならしていく方が良いと思います。
イラストは、解りやすく図解するために誇張して表現しておりますが、このインソールを付けることで、見た目が劇的にO脚改善されることは、まずありません。しかし、使ってみると、膝の内側にあったはずの痛みは軽減もしくは消失します。専門的に言うと、機能上のアライメント(あるべき構造)は改善されるので、使い続けることで変形性膝関節症(膝OA)の原因が取り除かれているということです。(X脚用は内外逆。内側が厚くなる。)
日常生活で気をつけること
- 正座をしない
- しゃがんで立ち上がるようなスクワット動作をしない
- サポーターを使う
- 階段は横向きで降りる
※過度な負荷・無理な作業は控えてください。
また、極端に重いものを持つ・しゃがむなどの姿勢が多い人は、作業姿勢や持ち方を工夫して極力「楽をする」ことを心がけてください。例えば、重い荷物は台車で運ぶ、しゃがみ姿勢にならないように作業台を使うなど、日常生活でのちょっとした動作を一つ一つ見直しましょう。
健康食品で軟骨保護
気休めかもしれませんが、ある程度の効果はあります。そんなに高くなく、続けられるものでよいと、個人的には思います。ただし、たくさん食べても体内への吸収量には限度があるので、バランスよく摂取することを心がけてください。
いい靴・ダメな靴
最後に、変形性膝関節症(膝OA)の人にとって、ダメな靴・お勧めの靴を紹介します。
ハイヒールなどのヒールの高い靴やブーツなどの足関節が固定されている靴は、踵接地の衝撃を吸収することができないので、膝にダイレクトに衝撃が伝わってしまいます。ヒールは極力低いものがお勧めです。
外反母趾などの方は、親指の付け根を気にしてサイズの大きな靴を履く方がいらっしゃいます。大きい靴を履くと、より大きく歩行動作を行う必要があるので、膝関節に余分な負担がかかってしまいます。これも控えてください。重い靴も同様です。
クッション性の良い靴は、踵の衝撃を抑えるのに役立ちますが、たまに、クッション性が必要以上に良すぎて、蹴り出し動作がスムーズに行えないような靴もみられます。ランニング初心者向けの靴などは、その点も考慮されているので、外れがないように思います。(「ラテラルウェッジ」インソールを併用すれば、なお良し)
バイオメカニズムの世界では、裸足が一番という考え方があります。2008年に米国リウマチ学会で出された論文によると、裸足のメカニズムを模倣した「切込を入れた靴」は、一般的な靴よりも膝への負担が少ないとのこと。普通の靴に比べ、膝にかかる内点モーメント(膝にかかる負担)が抑えられているというのですが、個人的には、蹴り出しのサポート位の踵の高さ(10mm位)はあった方がいいのでは?と思います。
その点、あるメーカーさんが出している、SHM機能付きの靴は一考の余地があるものだと思います。SHMとは、Screw-home movementという歩行時の膝の本来の動き方のこと。変形性膝関節症(膝OA)の人は、その動きが健康な場合と逆になってしまうため、靴底で強制的に反対の動きになるように工夫されたものです。今まではサポーターでしかこの動きは制御できないものと考えられていたのですが、靴底にあるゴム製の回転機構で動的に制御することで、膝の負担を減らしています。詳しくは、「SHM 靴」で検索してみてください。
歩く頻度が少ない人は、「ラテラルウェッジ」のインソール。歩く頻度が多い人は、SHM機能の靴という選び方が良いかもしれません。
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